例えば、から始まる俺の話をあんたはいつも毛嫌いする
そりゃあ俺だってそんな話は好きじゃない
それでも顎を細い肩に乗せる、手に相手の肩甲骨を感じるこの状況
俗に言う抱きしめ合っている状態で感じるのは、こんなことしてていいのかってことで
だって俺達別に恋人じゃないし、あんたには俺よりも大事なもんがいっぱいあるし
だからこういう話でもして確認してみたくなるってもんだ

『例えば、』

舌打ちにも負けず呟く

『崖から二人落ちそうです、一人は……』

「お前じゃないほう」

即答だった
…何だろうかこの虚しさは
そうですよね別にあいしあっている(ちょっと寒気がした)わけでもないもんね
いやここで問題なのはあいしあって(うわあ)もいないのに温もりを分け合っているということなんだ
始まりは向こうが猫みたいにすり寄ってきて、両手で俺の肩を抱いたことに始まる
据え膳なのだろうかとも考えてみたけれど、彼女があまりにも安心した顔をするから、ああ、と思った
彼女は寂しかったのだ
あやふやな存在に身を任せたいほど、現実に疲れたのだ
それは俺も同じだったから、それはもうすんなりと相手の小さな背を包み込んだ
酷く安心した
何も特別な繋がりがないから、俺たちの間には何もないから、よけいなことを考えなくていい

考えなくてよかった

そう、俺にとっては過去形だ

最近ではそんな中途半端さに何か意味を見出したくなってきている
信じられないくらいお互いに頼りなく、大切なものに怖気づいたときに縋る存在
それはそれは心地よいのだけれど、自分の手は確実さを求めて時折震える
心臓もわけのわからない焦燥に怯えるように機械的に鳴る
名前の無い感情に侵食されるのを自覚していた
しかし自分に言い聞かせなければならなかった
だって彼女は腕におさまりながら、夢の中にでもいるかのように穏やかな顔をしていた
このままでいなければならない、お互いにどうでもいい関係でいなくてはならない
だから、俺は腕に力をこめて何度も何度も心の声を繰り返す

俺達は不確かさで繋がっているのだ、と