『親愛なる貴方様へ
 突然ですが私は死にました、貴方の知っている私は死にました
 急な失踪に嫌な女だと思われるのも癪なので遺書を残しておきます
 しかし遺書を書くにあたって意外と書くことも無いということに気付きました
 なので思いつくままに脈絡も無く書いていこうと思います、お付き合いください

 ここを出るにあたって貴方がするであろう心配事はできるだけ小さくしたつもりです
 家事に関しては貴方のほうが主導権を握っていたので問題は無いでしょう
 部屋にいくつか物が残っていますが、私に必要なものは全て持ちましたのでご心配なく
 そして貴方を去る人間が思い出と共に行くのも変なので、貰ったものは全て置いていきます
 枕もとのウサギのぬいぐるみは最後まで迷いましたがやっぱり置いていきます
 死んだら私はおそらく生まれ変わりますが物である彼女は朽ちるだけでしょうから
 あとは私に似あいもしないスカートと、お婆ちゃんが好きそうな香水と、ああそうそう
 指輪は貴方が目にすると辛いと思うので隠しておきました、見つけないように
 それと、急な出発だったので部屋の掃除をしていくことができませんでした
 私の部屋はきれいに掃除をして(貴方にはいつも通りのことですけど)客室にでもどうぞ
 願わくば新しいお相手の居場所になりますように

 こういう手紙は普通思い出話をして泣かせるものなのでしょうが
 私は貴方に泣いて欲しくないので、またろくな思い出が思い出せないので止めます
 生活はなんとなく楽しかったという記憶しかなく、これ!というようなものが思いつきません
 貴方はいつか見たドラマのような遺書ではなくがっかりしているでしょうか
 でも私を美化するのは自分ですら無理なので仕方の無いことです
 こんな女を愛した、または利用しようと思ったのは貴方の失敗なのですから
 料理も掃除もしない、果ては目を盗んでいなくなるロクデナシ女のことは忘れてください
 私はもう戻りません、恨むのなら構いませんが恨んだところで私には届きません
 さっさと新しい人でも見つけて幸せに暮らしてください
 もうそろそろ忠告も紙も尽きてきましたので遺書を終わりたいと思います
 便箋がもう無いので使うなら買ってきておいてくださいね
 それでは、さようなら
Lily 』





『便箋がないので電話のメモ帳に、追伸
 (過去形にすれば全部本当になるとどこかの詩人が言ったのを承知で)
 私は貴方を愛していました、ずっとずっと愛していました。昔も、昨日も、今も』